
染色体異常試験の目的
染色体異常試験は、化学物質が染色体異常を引き起こす性質(染色体異常誘発性)を有するかどうかを評価するために行われるin vitro遺伝毒性試験の1つで、医薬品、医療機器、食品、化学物質、医薬部外品など、多岐にわたる製品に対して実施されます。
染色体は、分裂中期の細胞を光学顕微鏡下で観察した際に認められる棒状の構成体で、遺伝子の保存と発現に深く関与しています。そのため、染色体の異常は発がんや遺伝的疾患など、重大なリスクを高める原因となります。
染色体異常試験の主な目的は、染色体異常誘発性を有する化学物質を検出することです。染色体異常試験は、通常、細菌を用いる復帰突然変異試験と組み合わせて標準的に実施されます。
染色体異常試験の陽性結果は、染色体異常誘発性を有する化学物質の存在を示唆します。染色体異常試験において陽性結果が得られた場合は、染色体異常を誘発する物質によって生じるリスクを避けるための適切な対策を講じることが必要となります。
染色体異常試験の概要
ほ乳類培養細胞あるいはヒト抹梢血中のリンパ球を化学物質または医療機器からの抽出液で処理します。
細胞処理では、処理時間とS9 mixの有無を組み合わせた計3つの処理条件を設定します。
処理後、固定した細胞のスライド標本を作成し、ギムザ染色の後に光学顕微鏡下で標本観察を行います。
標本観察では構造異常(染色体の形態が変化)を有する細胞および倍数性細胞(染色体の総数が整数倍で増加した細胞)を指標とし、それらの出現頻度を陰性対照群と被験物質処理群との間で比較することによって染色体異常誘発性の有無を評価します。
試験方法
以下に示す3つの処理条件が用いられます。
- 短時間処理(S9 mix非存在下)
- S9 mix非存在下で細胞を3~6時間処理し、処理開始後正常な細胞周期の約1.5倍に相当する時間に細胞を回収したのち、スライド標本を作成する。
- 短時間処理(S9 mix存在下)
- S9 mix存在下で細胞を3~6時間処理し、処理開始後正常な細胞周期の約1.5倍に相当する時間に細胞を回収したのち、スライド標本を作成する。
- 連続処理(S9 mix非存在下)
- S9 mix非存在下で細胞を正常細胞周期の約1.5倍に相当する時間処理し、細胞を回収したのち、スライド標本を作成する。
判定方法および基準
ガイドラインで要求されている数の細胞を顕微鏡下で観察し、構造異常を有する細胞(図1)の出現頻度および倍数性細胞(図2)の出現頻度を調べます。
染色体異常を有する細胞の出現頻度が下記基準の全てを満たした場合、陽性と判定されます。
- 1段階以上の処理濃度において、陰性対照群と比較して統計学的に有意な増加が認められる
- 傾向性検定の結果、用量依存性の増加が認められる
- 陰性対照に関する背景データの管理限界値を超えている

図1 構造異常を有する細胞
